2023年12月4日月曜日

電源車デ形について①

12号電車+デ1号は、2023年11月3日の万田坑オータムフェスタにおいて、予定通りの3回の展示運転を披露しました。2022年9月29日保守運転の終了以来、充電は行っていないと思われるので、素人考えながら意外と持つものだなと思ったりしました。


閑話休題。
20トン電車+電源車は、架線集電と蓄電池給電を巧みに切り替えできることから、”ハイブリッド機関車”と評する方もいますが(はたして用語として正しいのか?)、無架線となっている三井化学大牟田工場の引込線をパンタグラフを下げたまま行き来する姿は鉄道ファンの注目の的でした。写真は、宮浦駅にてタキ5450形をつれて無架線下をゆく11号電車。


ところで、このような電源車運転については、しばしば次のような説明が散見されます。”火気厳禁の化学工場入換のためバッテリー機関車が使用されている”とされ、具体的な事由については”引火性のある薬品等に架線からのスパークを防ぐ”ことにあるとされます。同じような記述はウィキペディアにも書かれており、一見尤もらしい解説のように思えますが、バッテリー機関車の”必要性”を明記した資料は、わたしは今のところ見つけていません。実のところ、電源車の導入以前は、無架線の化学工場入換には火気の塊のような蒸気機関車が長年活躍していました。

電源車の導入過程については、幸いなことに製造元の東芝より「三井鉱山三池港務所電源車 新設計蓄電池を装備」*1)として社報にリポートされており大いに参考になります。以降、この資料をもとに何回かに分けて取り上げていきたいと思います。

まずは「まえがき」より。

「本線から分岐している各工場の引込線には蒸気機関車を使用していたが、蒸気機関車が段々老朽化してきたので保守修繕に大変手間がかかる上毎日ボイラーの灰落しを行なうため実働時間が短くなり不利な面が多かった」

1962(S37)年当時、在籍していた蒸気機関車は、1902(M35)~1907(M40)年H.K.porter製の25トンB型タンク機関車です。三池ではもっとも台数を揃えたクラス(8~16号)で、5台ほどが残っていたようですが、いずれも車齢60年近い古典機となっており、保守に苦労したことがうかがえます。

「蒸気機関車を運転する地区は化学関係の工場が多く、このあたりは建築限界一ぱいに複雑な建造物が多数設置されているので、簡単な考えから架線を延長しようとすれば既設建造物に多額の改修費を必要としかつ保安の上からも問題がある」

無架線の引込線については『三井鉱山五十年史稿』*2)に言及があり、全線電化完了の際にも「染料工場構内等特殊区域を除いて」として非電化のまま取り置かれたことが記されています。事情については詳細に触れていません。染料工場はのちの三井化学大牟田工場のこと。

老朽化した蒸気機関車の置き換えとしては内燃機関車の導入が一般的と思われますが、この点については「内燃機関車は運転費、保守費などを含めて考えてみた場合あまり得策ではない」とあっさりと除外されています。そこで「なんとか従来の電気機関車を有効に使用してこれらの問題が解決する方法が無いか種々検討したところ電源車がもっとも適当ではないか」としています。

電源車開発の流れはいささか唐突な感もしますが、リポートは触れてはいないものの、架線と蓄電池の両用対応という点からは、鉱山用機関車(Mining-Locomotive)の技術応用という面があるように推測します。一般には「複式機関車」と称するようですが(*3)、電気機関車に蓄電池車を増結、もしくは蓄電池機関車に集電器を載せた例を鉱山誌等ではいくつか見つけることが出来ます。

電源車デ形の場合、まずは老朽化した蒸気機関車の置換えという目的があり、電源車対応に改造可能な電気機関車(20トン電車)が複数台あったという条件と合わせて、20トン電車+電源車という本邦では珍しい運転方法が採用されたと見るべきと思われます。なお、この東芝のリポートは電源車の開発後一年を経過した際にまとめられたものですが(この間データ採取が行われた)、使用成績はすこぶる良好で、以降58年間にわたり運転が続くことになりました。

宮浦駅、
無架線のウレタン線(海上コンテナ線)における12号電車。

(*1)鵜沢正治・山司房太郎『東芝レビュー1963(S38)年10月号』東京芝浦電気発行
(*2)三井鉱山五十年史編纂室1943(S18)年
(*3)たとえば「坑内用蓄電池機関車の構造形式の概要及び蓄電池種類の比較」『グルックアウフ1953(S28)年7月号』日本石炭協会発行では、FL(Fahrdraht-Ladung)複式機関車として紹介されています。なお東芝社報ではトロリーバッテリ機関車という用語が見られます。

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